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大震災から学ぶべきこと-2011.6 沖縄建築新聞「建設論壇」

これまでに我々が経験したことのない大地震と大津波が東北・関東地方太平洋岸を襲い、未曾有の大震災となりました。被災地の悲惨な状況、原子力発電所被災による放射能汚染等、報道をみるたびに心が締め付けられる厳しい状況が未だに続いています。多くの犠牲者の皆様に心よりご冥福お祈りするとともに、被災された皆様にお見舞いを申し上げます。

 防災・災害の専門家ではありませんが、人命を守る建物の設計者とそしてまた、地域のまちづくりに携わる者として他人事ではありません。被災地の中で特に考えさせられたのは、岩手県宮古市田老地区の事です。この地区は「日本一の防潮堤」を持つ街としてご存知の方もいると思いますが、今回の津波で防潮堤は破壊され大きな被害が出ました。1896年、明治三陸地震M8.5で最高15mの大津波に襲われ、1,859人の死者を出し、1933年、昭和三陸地震M8.1では最大10mの津波で死者行方不明者911人を出していずれも町は壊滅的に全壊したということです。明治三陸地震では近くの大船渡市で28.7mの大津波が押し寄せていたことが記録に残っています。これらの津波被害を教訓に1934年に防潮堤の工事が始まり、1978年の44年間をかけて最終的に完成。海側と陸側の二重構造で高さ10m、総延長2.4kmの国内屈指の防潮堤となり、1960年のチリ地震の大津波では他の三陸沿岸地域で犠牲者をだしながら、田老地区では犠牲者が無く国内外の研究者が視察に訪れ、注目を集めたということです。今回の田老地区の被害に関し「防潮堤を信じた結果、犠牲になった住民は少なくない」という新聞記事にあるように、過去に大きな被害をだしながら防潮堤への過信が、多くの犠牲者をだしたと言えるのではないでしょうか。

 今回の大震災後に、沖縄県を含め多くの都道府県が防災計画の見直しを発表しました。見直し計画の内容を注目していきたいと思いますが、大津波を想定したスーパー防潮堤の様なハードで津波を押えるという方向性ではないと考えます。特に観光立県沖縄で10mを超える防潮堤が海岸沿いに連なる事は考えられませんし、海抜30m以上の高台に住民を移住させることも現実的ではありません。数十年に一度の大地震や津波にハード面を整備しようとする時、費用対効果が常に議論の対象になりますが、この度の震災で甚大な犠牲者をだし、家族や友人知人を目の前で亡くしていく悲惨な状況に立ち会った我々は、効率だけで答えを出す訳にいきません。

 東京で都市計画をやっている専門家と震災の話題になり、興味深い話がありました。「防潮堤に守られた町は大きな被害があったが、防潮堤から外れた町の住民は日頃から危機感があり避難訓練を定期的に行っていて犠牲が少なかった」とのことです。県内にだされた津波警報・避難勧告に従った方はそう多くはなかったと思いますが、明和(1771年)の大津波を代々言い伝えられている八重山の方々が高台に避難している報道が印象的でした。

 これまで避難場所としていた公園、学校、公共施設に避難していた住民の多くが犠牲になりました。確かに震度7でも多くの建物は崩壊していませんが津波に対する避難地とし適していなかったと言えます。海抜20m以上の場所に避難場所を確保するための考え方として、ひとつは那覇市の様な市街地では7階以上の民間のマンションやホテル、オフィスビルがあります。津波警報発令時に屋上を避難場所として開放できるシステムを行政と民間で構築することは大変なことではないでしょう。1棟当たり100人避難可能と試算すると2〜3万人が避難できるのではないでしょうか。屋上に備蓄倉庫や防災機能、自然エネルギー発電機能を設置した所有者には助成金や容積率の緩和等メリットだすことにより、場所の確保を促進することも可能です。今この時であれば民間所有者の理解をえることもできるのではないでしょうか。更に現実的には避難ビルを中心とした収容エリアの避難訓練が必要です。津波の到着が10分程度となれば今までの避難エリアではなく、スモールエリアの避難場所が多く存在する形が理想的です。もう一つは公園や学校などの従来の避難施設に備蓄倉庫・貯水槽・防災機能・太陽光風力発電等を備えた地上7階建以上の防災棟をたてることも有効だと思います。いずれもスーパー防潮堤に数百億円費やすよりも費用は掛かりません。建築基準法の耐震基準の考え方もそうですが、数十年、数百年に一度の大地震に対して、人命を守る事が最も重要であり財産の保護は二の次です。

 人類史上未曽有の大震災に遭遇した我々は、多くの方々の犠牲を決して無駄にすることなく後世に伝え、二度とこのような悲惨な状況にならぬ様、震災から学ぶべきことを一つ一つ整理し、皆で手を携えて対処しなければなりません。

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