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幅広い建築的発想を地域活動へ 〜建築とモノ・マチづくり〜 -2011.1.31 沖縄建築新聞「建設論壇」

昨年末、建築論壇の執筆の依頼があり、熟慮する方でもないので二つ返事で引き受けました。常に建築を見据えた活動をしているつもりですが、かなり迂回をした活動の紹介や論壇の趣旨からずれた内容となった場合はご容赦ください。

 さて、建築と出会ったころの話。在京の大学に進み何となく建築を学んでいた時、建築のおもしろさ、大変さ、深さを教えていただいた恩人と出会います。非常勤講師をしながら設計事務所を営んでいた先生は、その時既に還暦を過ぎていましたが、アパートを自費で借りて学生十数人を集め、私塾を開いていました。そこは建築に興味がある学生のたまり場で、デッサンや先輩の課題を手伝ったり、学生コンペに参加したり、寝ずの日々でした。
この私塾から丹下健三、内井昭蔵、黒川紀章、谷口吉生など建築家のアトリエへいった卒業生がいます。多くを学ばせて頂きましたし、きれいな絵を描く技術というより建築を志す者の覚悟を刷り込まれた気がします。建築は生活様式、文化、宗教、環境など人とかかわるあらゆることを許容し、様々な人間関係の中から新しい発見を見出していくものだと感じたわけです。

 卒業後は、建築家・前川國男のもとで修業をし、建築を支える技術と建築家の信条を垣間見ることになります。前川事務所のことはまた別機会に話したいと思いますが、建築は様々な芸術を取り込み、地域社会に働き掛け、人間関係を継続的に構築していく行為であることを教えていただきました。16年前、沖縄に帰り初めて大型施設に携わった沖縄県工業技術センターで、外壁の磁器タイルや床タイルを地元の土にこだわり試行錯誤を重ねて実現したことや幅5m×高さ7mのレリーフ(大嶺實清作)、タペストリー(多和田淑子作)を芸術家と共にやってきたことは、前川事務所の影響であり、建築に欠かすことのできないものを発注者に理解してもらうまで、粘り強く協議することの重要性を学びました。

 12年間の東京での経験は、現在の思考や行動に深く関わってきています。2009〜10年に「KAMI GAKARI(紙係)展」という紙の可能性を探る企画展を、県内で活躍するクリエイターと共に県立美術館県民ギャラリーで開催しました。全体をプロデュースする立場での関わりは建築同様刺激的であり、グラフィック、服飾、染色、テキスタイルなど様々な分野のデザイナーとの新しい創作活動は、今後建築をつくる上で奥行きを与えてくれるものだと思います。

 また、与那原町の旧商店街の空き店舗を活用したまちおこし活動も最近はじめています。
空き店舗対策事業というのは、どこの商店街でもことごとく失敗に終わっていると思いますが、我々設計者の持つ発想、例えば街全体にアート作品を散りばめランドアートができないか、えびす通りをクリエイターの即売展示場とし毎月のイベントにできないか、地域で収穫された農畜産物や海産物の即売場は可能かなど、街全体を巻き込んだムーブメントを起こそうと動き始めました。一見建築と関係のないことのようですが、そうは思いません。たとえ単体の建築であっても、街のファサードを形成するし、群となれば街のスカイラインを決定します。建物を建てるだけが我々の仕事ではなく、物事のプログラムやシステムの再構築をすることも大きな役割だと考えます。障害もありますが、町の商工会の有志や一緒に頑張ってきたクリエイターと共にとにかく行動に移そうとしています。

 最後に(社)日本建築家協会(JIA)沖縄支部の理事としての活動を一言。JIAの主な活動は建築家としての職能の社会的認知度を高め、設計業務環境の改善、建築文化事業の開催、若い世代の育成を行っています。第14回を迎えた卒業設計作品選奨は、JIA会員が審査委員となり、表彰・公表を行うことで学生の登竜門としての役割を担っています。今年は3月に公開審査を行い、多くの学生や一般の方にも興味を広げるよう取り組んでいるところです。今年の新たな取組として、アンダー40の若い世代を対象としたコンペティションを官公庁と共同で開催できないかを働き掛けています。また、地域と世界が繋がるJIAならではのイベントとして、世界各国より建築家が集い、第24回世界建築会議(UIA大会)が9月末に東京で開催されます。沖縄支部会員のパネル展や沖縄でも琉球王国のグスク世界遺産ツアーが行われますので、興味を持っていいただければ幸いです。自己紹介も兼ねて現在の主な活動内容を紹介しましたが、建築が生活の様々な場面
に関わる以上、活動の範囲も広がっていくものだと思います。

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