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学識経験者と建築家の間-2011.7.19 沖縄建築新聞「建設論壇」

一般に学識経験者というと大学教授、弁護士、公認会計士、税理士、医師などが挙げられます。いずれもプロフェッショナルサービス、公共性の高いサービスを提供する職能であると言えますし、「学問上の知識と高い見識を持ち、生活経験が豊かである」とした学識経験者の定義にあてはまる職種であると思います。それぞれの専門分野における社会的な問題に対し、行政機関から意見を求められる事はよくあると思いますし、建築家もプロフェッショナルとして建築審査会や都市計画審議会などにおいて意見を求められます。しかしながら、専門分野以外の公共性の高い様々な課題について弁護士や会計士のように建築家が意見を求められる事は、ほとんど無いのではないでしょうか。先に述べた「学問上の見識と生活経験豊か」という意味において建築家は、学問上の見識は当然のことながら、気候風土・自然環境・歴史文化を読み取り、人と人、人と自然、人と生活スタイルを分析する中で最善の関係を導き、依頼主の財産を守り、事業性を判断する職能であり、様々な専門家の中でも「生活経験が豊か」な状況に常に身を置いた者であると言えます。

 7月14日(木)〜16日(土)の3日間、沖縄県版の事業仕分「県民視点による事業棚卸し」が沖縄県産業支援センターで行われました。昨年に引き続き2回目の開催で、県の84事業の必要性や効率的な実施主体、費用対効果について公開で討論し評価するもので昨年は7事業が「不要」とされ、事業予算、事業内容の見直しが行われました。評価を下すのは学識経験者、産業・経済・労働界及び一般公募から選任された32委員が4班に分かれ構成され、私も産業・経済・労働界の代表として棚卸し委員会に参加しました。

 第1班は福祉保健系事業、第2班は教育文化労働系事業、第3班は農業商工観光系事業、第4班は土木建築系事業について、それぞれ20事業から23事業が10回の班会議の中で議論され現地視察を行い、班会議では結論を出すのではなく視点論点の整理に終始し、公開当日に各委員が独自に評価を下すというものです。私は第3班に所属し、大学教授、弁護士、会計士、産業経済の代表者、公募者の8人の委員で構成されていました。各事業は事業シートと呼ばれるA4紙3〜5枚に事業対象、事業目的、事業内容、事業費、成果実績、今後の方向性や自己評価がコンパクトにまとめられていて、委員は事業シートを読み込み、担当課に対し質疑応答を繰り返しながら相互の関連付けを行い、県民視点に立って論点を整理していくのです。それはまさに我々が日頃から設計の中で行っている設計条件の整理とプログラムの構築、明確で分かりやすい成果(建築)を求めていく過程に似ています。設計条件や事業目的に対し、機能的で明快であるほど結果は美しく、誰もが納得できるものと言えるでしょう。建築は設計趣旨、機能や形に対し常に説明を求められ、根拠を明確にし、相手を説得し、事業の採算性を含めた費用対効果を期待されます。何よりもその一連のプロセスが人間生活に密接に関係しているということです。

 事業棚卸し委員会というある特定の機会ではありましたが、個人的には学識経験者と建築家の間に何らギャップを感じませんし、多くの建築家も私と同じ感覚を持って頂けるものと思います。違いがあるとするならば、建築家という職能が一般社会に認知されていないということでしょう。それは設計業界にも大いに問題があると思いますし、作品をつくりだすことだけが建築家の役割ではなく、社会公共の様々なシーンで必要とされる役割は多いにあると思います。大学は地域の研究機関として情報収集や分析能力を持っていますし、弁護士や会計士は弱者の立場でもの申したり、公益組織をあげて法律相談会等を開催したり、会計処理に精通していることが評価され認知されています。建築界の公益活動はいかがでしょうか。景観形成や大規模開発計画への提言活動、建築相談会はもとより、多くの建築家がまちづくり住民会議等に積極的に参加し、他業界団体との意見交換、社会問題への発言など、もっと公益性の高い活動により社会貢献度を認知いただかなければなりません。組織会員の利益や業界内部の活動をしていても世の中は認めてくれません。行政のトップは政治家だが、ナンバー2は建築の専門家を登用し行政運営を実施している自治体もあると聞きます。行政が抱える様々な課題を解決するためには、建築家の持っている知識・見識と経験が必要であると思いますし、建築家を学識経験者として登用していただくことをお勧めいたします。

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