施主と恩師と私のドラマ-住まい備志録(建築新聞掲載)
設計の依頼は東京からの1本の電話であった。地元の住宅の設計依頼が何故と電話で話しながら不思議に感じていたが、恩師の息子さんと施主が仕事上のお付き合いがあり、「沖縄には俺の教え子がいる」の一言で決まったそうだ。恩師はとうに85歳を超えるが、建築を目指すきっかけをつくってくれた恩人でもあり、今もその恩を返し続けている。
さて、敷地は南向きの斜面地にあり、南北に細長く3mの高低差がある。南側は眺望もよく夏場には心地よい涼風も期待できる環境の良い場所である。
施主の要望は、①風水を取り入れた計画②人が沢山集まれる家③周辺よりプライバシーの確保であった。前回の施主もそうであったが、「風水」を要望する人が最近多いように感じる。特に専門にやっているわけでもなく逆に以前は敬遠していた。本で学びながらプランニングしていると日当たりの悪い北側や西陽を避けた部屋の配置など、理にかなったフツウの考え方であることに気付く。そうでないこともあるにはあるが・・・。
「人がたくさん集まれる家」の話題で打合せをしていると、パブリックゾーンとプライベートゾーンの領域分けということになった。ご主人は友人や仕事上のお付合いの方を呼びホームパーティーが好きで生活感のない空間を好み、奥さんや子供たちは私生活を見られたくないということのようだ。敷地の高低差を利用し地下1階に駐車場、車道より1.5m〜3m上がった元地盤である1階に住居の構成とすることで、「周辺よりのプライバシー確保」を実現する
「設計者は常に学び、応えていくことで信頼関係を築くことができる。」恩師の口癖を思い出す。
住宅設計の依頼や設計プロセスには、それぞれのドラマがある。特に施主との巡り合わせは不思議なもので、風水もそうだが、見えない何かが働いている気がする。
竣工写真を恩師にみて頂いていて、コメントが楽しみである。