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建築のスペシャリストとプロフェッショナル-2011.4 沖縄建築新聞「建設論壇」

 スペシャリストとプロフェッショナルの違いをどうお考えでしょうか。辞書を引くとスペシャリストは「特定分野を専門にする人。特殊技能を持つ人。専門家」とあり、プロフェッショナルは「特定分野について、専門的知識・技術を有した専門家。専門的職業家」とあります。辞書の説明だとその違いがよく分からないし、ある辞書では専門家として、きちんとした対価を得ることがプロフェッショナルであり、アマチュアに対する語であるとしています。一般論としてプロフェッショナルというカテゴリーの中にスペシャリストが内包されていると言っていいと思いますし、ジャンルによってその定義が多少違うのだろうと思います。

 建築界のプロフェッショナルとはどのようなものなのか、スペシャリストの違いはどんなところにあるのでしょうか。建築設計という専門家集団に身を置くものとして興味があり、考えてみることにします。

 弁護士・税理士・司法書士などの士業(サムライ業)は、高度な専門性を要求される職業であり、国家資格として公益性も担保されていることなどから、実務経験を積んだ士はその道のスペシャリストと言えます。中でも建築の世界は、建築士、構造・設備建築士、積算士、コスト管理士、建築設備士、建築・設備施工管理技士・各技能士など様々な専門のスペシャリストがいて、その技術の集積として建築が成り立っているのです。

 建築家・前川國男建築設計事務所に在籍していた頃、OBに横山禎徳という方がいました。異色なプロフィールの持ち主で、当時の私は横山氏にとても興味を抱いていました。建築の専門的知識を持ちながら、経営・経済についても専門家であることにプロフェッショナルとしての奥行きの深さを感じたのかもしれません。彼は東大の建築学科を卒業後、前川事務所に入所しますが数年で休職、留学し都市デザイン修士号を取得、その後経営学修士号を取得し、経営コンサルタント米大手のマッキンゼー・アンド・カンパニー入社します。横山氏は前川先生からプロフェッショナルの定義について問われた際、「名人や匠、巨匠とは全く違い、学問的な体系に基づいた高度技能を依頼人のために活用し報酬を得る。そのための倫理観を持っている人」と答えたそうであり、建築の世界を離れた後も大変役にたったといいます。プロフェッショナルの語源がProfess(神の意を宣言する)であると言われているように、その背景にあるのは、神の宣託受けた者、人々の役立つ業を全うすることのできる人と言えるかもしれません。「天職」という言葉がある様に「神から授かった役割」という認識がプロフェッショナルには必要です。かつて人々の絶対的な信頼と尊敬を集めていた学校の先生やお医者様、弁護士と同様に建築家も位置づけられるべきなのです。

 前川先生は口癖のように「アーキテクト(建築家)とエンジニアは全く違う。何故ならエンジニアは与えられた境界条件の中で仕事をする人達であり、アーキテクトはその境界条件を設定する能力を持っているのだ」と言っていたそうです。アーキテクトはプロフェッショナルであり、エンジニアはスペシャリストであると言えるのでしょう。新たな条件を設定することこそプログラムの再構築であり、新しい世界を切り開く能力であると思います。プロフェッショナルは特定分野の専門家という基礎の上に、関連する他分野の知識と経験を有し、独立した立場で社会的責任を負い、持続可能な社会の発展に貢献する信条を持つ職能と言えます。

 プロフェッショナルの定義とは、(1)高度な技能の信頼を優先した活用により報酬を得る。(2)新たな枠組を自律的に発想できる(3)専門家としての公益性と自立性、倫理観を持つ。(4)その技能が第三者にも認められている、といったところでしょうか。著名な建築家や芸術家、あるいは弁護士や医師が必ずしもプロフェッショナルというわけではなく、サラリーマンでもその定義、とりわけ自律性と倫理観を持っている方であればプロフェッショナル
と呼んでいいでしょう。

 建築を志す若者たちには、是非プロフェッショナルをめざして志高く、励んで頂きたいと思いますが、最近では学生の希望就職先が県内志向であると聞きます。沖縄は住みやすいところではありますが、プロをめざすにはあまりにも狭い世界であり、県外・海外で修業を積むべきです。私もプロフェッショナルをめざして、建築はもちろんのことその周辺にある知識や経験を積んで、精進していきたいと思います。

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